インフルエンザウイルスとは?

2017-03-10

インフルエンザウイルスとは?


インフルエンザはインフルエンザウイルスによって引き起こされる呼吸器疾患です。いわゆる「風邪」と混同されがちですが、一般的な風邪(普通感冒)とは異なり、重篤化しやすく周期的に発生することから「流行性感冒(流感)」などと呼ばれ区別されるのが普通です。

原因となるインフルエンザウイルスはオルソミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)に属するマイナス一本鎖RNAウイルスです。オルソミクソウイルス科はウイルスの粒子の中に8本の遺伝子(分節)を持つという特徴があります。


問題になるのは、この同族の二種類のインフルエンザウイルスが同じ細胞に感染すると、8本の遺伝子が「シャッフル」されて新しい性質を持つ新しいインフルエンザウイルスが誕生する、という性質です。


この現象は不定期ではありますが人類史上何度となく発生しており、パンデミック(世界的大流行)を引き起こしてきました。歴史を紐解くと、日本でもその時代の流行りに応じて「谷風邪」(その時の横綱谷風)、「お七風邪」(八百屋お七)、「お染風邪」(その時代に流行した歌舞伎のヒロイン)などと名付けられていいたりします。
我々が最も記憶に新しいパンデミックは、2009年4月に北米で発生した新型インフルエンザウイルス(A H1N1pdm)です。このウイルスはブタのインフルエンザウイルスが他のインフルエンザウイルスと「シャッフル」して発生したウイルスで、その経緯から俗に「ブタインフルエンザ」とか呼ばれたり、学術論文ではブタ由来新型インフルエンザウイルス(Swine-origin influenza virus: S-OIV)と称されたりします。幸運なことにこのインフルエンザウイルスは病原性が比較的低く、全世界で約1万8千人程度の死者(2010年4月30日現在WHO把握数)で一旦終息しました。病原性が低いとはいえ、決して侮れない数の犠牲者が出たことが分かります。


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インフルエンザの流行の歴史

2017-03-10

インフルエンザの流行の歴史


人類史上で最も多くの犠牲者を出したインフルエンザウイルスのパンデミックは1918年のスペイン風邪です。100年近く昔のことなのである程度は類推値になりますが、約6億人が感染し(その時代の総人口は約20億人)、3千万人から6千万人が死亡したといわれています。日本でも総人口5500万人中39万から48万人が死亡したと報告されています。スペイン風邪のウイルスの病原性は致死率1から5%程度ですが、このレベルのインフルエンザウイルスがパンデミックを引き起こすと非常に大きな被害を巻き起こすことが分かります。

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高病原性鳥インフルエンザ

2017-03-10

高病原性鳥インフルエンザ


現在最大の問題と考えられているのは俗に「トリインフルエンザ」と呼ばれている、高病原性トリインフルエンザウイルス(High-Pathogenic Avian Influenza virus: HPAI)です。パンデミックを引き起こすウイルスは、ブタにトリのインフルエンザウイルスとヒトのインフルエンザウイルスが同時に感染し「シャッフル」がおこり発生するというのが、従来の考えでした。従って、トリインフルエンザウイルスは直接ヒトに感染はしないと考えられてきました。

ところが1997年香港で、トリインフルエンザウイルスに感染した家禽に触れた人間にもそのウイルスが感染し、感染者18人中6人が死亡するという事件が起こりました。これはトリインフルエンザウイルスが直接ヒトに感染した初めての報告となります。2003年以降にはこのHPAIはアジア諸国の野鳥で蔓延し、現在は世界中に拡散しています(図1)。感染した野鳥や家禽に触れて感染した患者も後を絶たず、2010年5月6日現在で約500人の感染者が報告され、その6割の約300人が死亡しています。幸運なことに現在このHPAIはトリからヒトへの感染は起こってもヒトからヒトへの感染は基本的には起こりません。ですので、このウイルスがすぐにヒトで大流行を巻き起こすということはありません。


図1 鳥インフルエンザの世界中への拡大


となると危惧されるのは、前述のような他のインフルエンザウイルスとの「シャッフル」が発生することで、このHPAIがヒトへの感染性を獲得しパンデミックを引き起こすことです。最大の被害を巻き起こしたスペイン風邪でさえ数%の致死率ですから、致死率が60%もあるHPAIがパンデミックを引き押すと未曾有の大損害となる可能性が高いです。従って、パンデミックが起こる前に対策を講じておくことが、世界的に重要なことであると考えられています。

現在、人から人への感染は日本では見られていないものの、致死率が高く、パンデミックが起これば、国内の死者は17~64万人に上ると推定されています。現在、S-OIVの陰に隠れていますが、H5N1亜型による高病原性トリインフルエンザに対する人類の危機は何一つ変わっていません。

高病原性トリインフルエンザの国内パンデミックを防ぐには、初期の侵入を防ぐ為の水際対策に始まり、水際対策をすり抜けた初期感染者の早期発見、濃厚接触者の感染確認、封じ込めや、その効果確認、感染の終息を確認する為のサーベーランスなどの対策を講じる必要があります(図2)。


図2 サーベイランス


また、抗インフルエンザ薬タミフルは、発症後48時間以内に投与する必要がありますが、季節性のインフルエンザにおいてもタミフル耐性ウイルスが蔓延し、新型インフルエンザにおいても不連続変異によりタミフル耐性を獲得する可能性もあることから、治療効果予測も必要です。


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インフルエンザの診断

2017-03-10

インフルエンザの診断


これらのことから、迅速で高感度な診断法確立がパンデミック対策の鍵となります。現在の診断法は、大きく分け二つあり、イムノクロマト法、もしくは、遺伝子法が用いられています。イムノクロマト法は病院だけでなく、今回のパンデミックでは検疫でも診断に用いられていますが、A型、B型の識別能力しかない上、感度も不十分である為、簡易診断の位置づけです。一方、亜型識別、高感度を目的とした場合、遺伝子法に頼らざるを得ませんが、遺伝子法は特別な装置と、測定者に一定の技術が要求されるため、検体も保健所を通し、地方衛生試験所等に送られ測定されます。そのため、時間を要する検査に加え、結果がフィードバックされるのに、さらに時間を要します。

今回のS-OIVパンデミックにおいても、当初、高病原性トリインフルエンザ対策にのっとり遺伝子法診断が進められましたが、検査のキャパシティーを超え、現実にサーベーランスは打ち切られました。今回の新型インフルエンザは致死率が低かったため、そのパンデミックによる死者という面での被害は少なかったものの、高病原性トリインフルエンザ・パンデミックに対する予行演習という位置づけで考えるならば、対策の改善が必要です。 

イムノクロマトによるインフルエンザの診断



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私達の取り組み

2017-03-10

私達の取り組み


東京都臨床医学総合研究所は東京都主導の高病原性トリインフルエンザ対策プロジェクトを受け、1)抗体医薬、2)創薬、3)ワクチン、4)診断薬の開発を基盤とした実用化研究に取り組んでいます。その中で、我々は診断薬開発を目的として、トリインフルエンザ対策プロジェクトの一端を担い、S-OIVやHPAIを中心としたウイルスの検出システムの研究を行っています。

一つ目は迅速遺伝子診断法で、従来数時間は必要な遺伝子診断を30分以内に終えるシステムです。このシステムが普及すれば一般の病院や保健所等で遺伝子法による迅速な診断が可能になり、パンデミックの際の対処に重要な役割を担うことが期待されます。

二つ目はイムノクロマト法です。イムノクロマト法は現在一般の病院等で「簡易診断」としておこなわれている方法ですが、感度が低く見落としが多いことが知られています。当グループではこの方法を改良し従来法の数千倍の感度を持つように改良を進めています。これらの新しい診断法はHPAIのような本当に危険なウイルスのパンデミックが起こった際に最大限の力を発揮すると思われます。それ以外にも、HPAIの病原性の新たな原因究明やそのことへの対策法の確立など基礎的な研究も行っています。  


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超高速PCRによる迅速遺伝子診断

2017-03-10

超高速PCRによる迅速遺伝子診断


遺伝子法の短時間化には、共同開発中の超高速リアルタイムPCR装置(販売シンセラ社、製造トラストメディカル社)を用い検討しています。通常の(リアルタイム)PCRがブロックの加熱・冷却を行い酵素の反応温度を制御するのに対し、この装置は、コンパクトディスク(CD)型のサンプル容器(薄型にすることで熱伝導を良くする)を3つの異なる温度に固定された熱板上を回転させることで、通常のPCRで必要なブロックの温度変化にかかる時間を取り除き、PCRの高速化に成功しました(下図)。そのため、3-4時間を要する(リアルタイム)PCRが15分程度で終了します。また、従来のイムノクロマト法も検出方法を改善することで、これまでの100~1000倍の高感度化を目指しています。




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高感度イムノクロマトによる簡易・迅速診断

2017-03-10

高感度イムノクロマトによる簡易・迅速診断


1.高感度イムノクロマトによるインフルエンザの簡易・迅速診断
感染初期(3日以内)のインフルエンザ患者の囲い込みに好適な検出法として、イムノクロマト法を研究しています。イムノクロマトは、PCR法のような特別な装置や長時間の煩雑な操作を必要とせず、専門家以外でも、その場で10〜30分以内に検出できる特長があり、次世代の予防・早期診断法として非常に注目されています。既に、妊娠検査やインフルエンザの診断キット等が多数市販されていますが、従来法では検出感度や特異性の点で問題があります。検出感度は、PCR法の1/10~1/100(~数ng/ml)であり、特異性においても、かなりの確率で偽陰性(感染しているにもかかわらず、陰性という結果になる)や偽陽性(感染していないにもかかわらず、陽性という結果になる)が発生します。高病原性鳥インフルエンザのように、致死率の高い感染症のfirst screeningとしては、特に前者が大きな問題となります。偽陽性は、二次検査で陰性と診断されればさほど問題ではありません。本研究の最終的目標は、このイムノクロマトの感度をPCRと同程度以上(100倍以上)に改善し、特異性を向上させ、特に偽陰性をなくし、H5N1以外の亜型やタミフル耐性等の多項目が検出可能で、実際の新型インフルエンザの防疫に使用できる検出装置を完成することです。

2.イムノクロマト法の基本原理
イムノクロマト法の基本原理は、メンブレン上で行うサンドイッチELISAであるといえます。一般的なイムノクロマト法(ラテラルフロー式メンブレンアッセイ法)では、(1)被検出物(=抗原、ウイルス由来蛋白等のバイオマーカー)、(2)被検出物に特異的に結合する膜固相物質(=捕捉抗体)、(3)被検出物に特異的に結合する標識物質(=検出抗体)の3種の複合体をメンブレン上に形成させて、(3)を検出あるいは定量する方法です。
操作としては、(1)の被検出物を含む溶液を、サンプルパッド(図1左端)に滴下し、毛管現象によってメンブレン内を水平方向(図1、矢印)に通過(展開)させるという単純な操作です。メンブレンは、高吸収性ポリマーから構成され、内部表面積が大きく、生体分子の結合と保持に理想的な素材です。(3)の標識としては、金コロイド、着色ラテックス粒子、HRP酵素のように、被検出物に特異的に結合する物質が多く利用されています。
図1のような金コロイド法では、テストラインが発色すれば陽性であり、発色しなければ陰性です。コントロールラインは、常に発色し、操作に問題がないことの確認の役割を果たします。


図1イムノクロマト法の基本原理


3.研究目標
(1) 現在市販されているインフルエンザの診断キットは、主に、ウイルス粒子内の核タンパク質またはウイルス表面のタンパク(HA、N)を抗原としています。前者は、感染初期の検出感度が低く、後者は、ウイルスが変異を起こした場合は偽陰性と診断される等、特異性が低いことが問題です。感度・特異性が高いアッセイ系(PCR等)は、操作が複雑で、専門的な装置や技術を必要とし、費用と時間が必要です。本研究においては、簡便かつ短時間(30分以内)の判定ができる低コストのアッセイ系で、かつ、感度・特異性をともに向上させることを目的とします。

(2)市販のイムノクロマトは、単一マーカーに対する診断しかできない場合が殆どです。本研究では、同時に複数の抗原を検出するMultiplex化技術によって、3〜5項目(複数の亜型やタミフル耐性)の新型インフルエンザを短時間で同時に検出することを目標としています。

(3) High-throughputな検出機器、特にハンディな機器の開発によって、例えば高病原性鳥インフルエンザのパンデミックが発生した国からの帰国者を空港で診断したり、国内で患者が発生した地域に医者・医療従事者を派遣するといった場面でも大いに有用です。また、本検出系を他の感染症(ノロウイルス等)やがん・生活習慣病に応用した場合にも、外来、ベッドサイド、救急車両等より患者に近い場所で診断ができ、それらの疾患の予防・診断、さらにはマススクリーニング(健康診断等の予防に重点を置いたスクリーニング)等、多検体の大量スクリーニングへの応用にも対応できます。本研究のような、簡便で、患者自身ができる検査法・診断法の普及と、更にIT企業と連携によって、中央診断センターでの一括データ管理や、専門医による診断が可能であり、現状の大病院集中型の医療体系を大きく転換できる可能性を持ちます。

(4) MUSTag法のように、fg/mlレベルの感度になると、超早期の癌細胞から分泌される極低濃度の癌マーカーの検出が可能となります。目に見えない小さい癌(Invisible Cancer)を超早期に発見することができれば、癌であってもほぼ完治できる可能性が提唱されています。また、適切なバイオマーカーが見つからない疾病に対しても、多数サイトカインのプロファイルを測定することにより診断がつくようになります。遺伝子の個数から見込まれる遺伝バイオマーカーの個数は3-4万種類、蛋白質はその10倍の数が予想されています。現在バイオマーカーの探索が多くの大学や企業で行われていますが、診断薬や創薬への応用のためには臨床研究、治験が大きな障壁です。本研究の結果、「MUSTagクロマト」での迅速同時多項目の臨床検査が可能になれば、これまでに蓄積された膨大な数のバイオマーカーの臨床での選別が加速されると思われます。

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