子宮頚癌の診断薬開発

2017-03-10

子宮頚癌の診断薬開発


1. 子宮頸がんとは
  子宮頸がんは、がんができる部位によって子宮頸癌と子宮体がんに分類されます。子宮頸がんと子宮体がんは別の種類のがんで、できる場所ばかりでなく、発生のメカニズムや年代別罹患率も大きく異なります。
  子宮頸がんは子宮の入り口である頸部の上皮細胞から発生し、30 - 40歳代で多く診断されています(30 - 40人/10万人)。日本では1年間に約8,000人が診断され、約2,500人が亡くなっています。一方、子宮体がんは子宮の奥にある体部の内膜から発生し、50 – 60歳代で多く診断されます(15 - 20人/10万人)。国内では1年間に約5,000人が診断され、約1,000人が亡くなっています。(図1)


図1 子宮癌の発症率

2. 子宮頸がんの原因
  子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)の感染が原因で発生します。感染は粘膜の接触によって起こりますが、その多くは性交渉に因るものです。HPVには100種類以上のタイプがあり、癌との関連が強いハイリスクタイプは16, 18, 31, 33, 35, 39, 45, 51,
52, 56, 58, 59, 68 などがある。子宮頸癌ではこのうち、HPV16, 18, 45, 58 が多く、特にHPV16 は約50%に同定されることが報告されています。発がん性HPVは決して珍しいウイルスではなく、全女性の約80%が一生に一度は感染しているという報告もあります。

HPV はエンベロープをもたない直径52 ~ 55mmの正二十面体粒子であり、ヒストン様蛋白質に結合した1 分子の環状二重鎖DNA(ウイルスゲノム)をキャプシド蛋白質であるL1, L2 両蛋白質が包んでいます(図2)。この感染性をもつ完全な粒子以外に、ウイルス感染組織内には中空で非感染性の粒子が存在します。


図2 HPVの構造
(飯原久仁子;ヒトパピローマウイルスと子宮頚癌、モダンメディア53, 115-121,2007)


  HPVに感染しても、多くの場合は免疫力によってウイルスが体外に排除されますが、10%程度の確率で感染が長期化することがあります。この中で、ごく一部が前がん状態から子宮頸がんへと進行します。

3. 子宮頸がんの予防
  子宮頸がんの初期には、自覚症状がほとんどありません。そのため、不正出血などの異常に気付いた時にはがんが進行している場合があります。進行したがんでは、子宮全摘出の必要性が出て来るだけでなく、まわりの臓器にまでがんが広がってしまうと卵巣やリンパ節まで摘出、さらには生命に関わることさえあります。
  しかし、子宮頸がんは早期に発見すれば決して恐ろしい病気ではありません。このため定期的に検診を受け、がんを早期に発見し、適切な治療を受けることが大切です。(Fig. 2)


図2 子宮頚癌5年生存率


  また2009年12月より、日本国内でも子宮頸がんワクチンの接種を受けることが可能になりました。このワクチンは、特に発がんの危険性の高いHPV16型および18型の感染を予防するものです。ワクチン効果の持続性や、必要量の個人差は明確ではありませんが、現在、半年の間に3回の接種が推奨されています。ただし、このワクチンのみではHPV16型/18型以外の感染を防ぐことはできませんので、これまで通り、検診も必要です。


4. 私たちの取り組み
早期発見診断薬の開発:子宮頸癌を早期に発見するため、超高感度の測定系を利用した診断キットの開発を目指しています。

ワクチン効果測定法の開発:ワクチンの効果を検証するための方法開発を行っています。


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膀胱癌の診断薬開発

2017-03-10

膀胱癌の診断薬開発






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乳癌の診断薬開発

2017-03-10

乳癌の診断薬開発


乳がんは現在、女性で最も頻度の高いがんであり、なお増加傾向にあります。乳がんは患者ごとにその性質が異なることが知られており、遺伝子解析や組織染色により数タイプに分類されます。この分類により、治療法や治療薬が選択されるなど、乳がんの治療は近年、それぞれの患者に適した治療を行う個別化医療の時代に入ったと言われています。

リスク要因としては以下の通り。
* 妊娠・出産歴がない。
* 第一子の後。
* 母乳を与えない。
* 初経年齢(月経が始まった年齢)が低い。
* 閉経年齢が高い。
* ホルモン療法(エストロゲン製剤、ピル等)を受けている。
* 女性化乳房(男性の場合)。
* 飲酒
* 喫煙
喫煙については、日本人を対象とした研究(JPHC研究)では、閉経前の喫煙女性の乳癌リスクは、非喫煙者より3.9倍、受動喫煙だけなら2.6倍高くなる。閉経後の女性ではリスクの上昇はみられていない。



年齢と共に乳癌の発生する確率は高まるが、若年齢で発生した乳癌は活動的である傾向が存在する。乳癌の一種の炎症性乳癌 (Inflammatory Breast Cancer) は特に活動的で、若い女性に偏って発生し、初診時のステージがIIIbまたはIVであることが多い。この癌は他とは変わっていて、乳癌のしこりが無いこともしばしば見受けられ、マンモグラフィーや超音波検査で発見することが出来ない。乳腺炎 (Mastitis) のような乳房の炎症が症状として現れる。

検診
30歳代から高齢の女性ほど罹患率が高い為、今日では多くの国で検診を受けることが推奨されている。検診には胸部自己診断法 (breast self-examination) とマンモグラフィー (mammography) も含まれる。いくつかの国では、壮老年女性の全員の(毎年の)マンモグラフィー検診が実施され、早期乳癌の発見に効果を挙げている。
この段階で施されるマンモグラフィーは早期乳癌を発見する為の選択肢のひとつであり、これひとつですべての年齢、すべての乳癌の、早期発見がカバーできるものではない。より一般的な方法として、超音波検査も併用することが有用と思われる。単に検診としてはMRIやCTなど、マンモグラフィーや超音波検査に比べて、不便な画像診断も存在する。CTは乳癌の検診にはあまり適しておらず、費用や検査時間など使い勝手の点でMRIも同様に検診には使い難い(ケースバイケース)。
アメリカの低所得者層では医療サービスへのアクセスが十分でないため、乳癌の検診を受ける率が低く、それと相関して乳癌が診断された時に癌が進行している確率が高い。そのため、連邦政府は乳癌・子宮癌早期発見プログラムを1990年に創設し、低所得者のための無料検診を実施している。これを受けて州政府も州の財源を追加して乳癌の低所得者無料検診を拡大した。例えば、カリフォルニアでは増税したたばこ税を財源として、1年間に20万人弱の女性に無料検診を提供している。
検査
壮老年女性の検診は増加しているのにも関わらず、多くの女性が乳癌に最初に気づくのは、かかりつけ開業医などが乳房のしこりを発見することである。
一般的な乳癌のスクリーニング検査としては、問診、触診、軟X線乳房撮影(マンモグラフィー)、超音波検査等が実施される。臨床的に疑いが生じると、乳房MRI検査および細胞診や生検が実施され病理学的診断により癌であるかどうか判別される。細胞診は多くの場合、超音波装置の誘導で腫瘍内に細い針を挿入し腫瘍細胞を採取する。生検にはいくつかの種類があるが、超音波ガイド下にやや太目の針を挿入して腫瘍の一部を採取する針生検が最もスタンダードである。細胞診や針生検で診断が困難な場合には、超音波またはマンモグラフィーを取る機械を用いたマンモトーム生検、MRI検査でしか描出できない多発乳がんなどの場合は、MRI検査をしながら生検を行うMRIガイド下乳腺生検が行われることもある。
病理医はふつう、腫瘍の組織型と、顕微鏡的なレベルの進行度合い(浸潤性であるか否か、など)を生検の報告に記述している。浸潤性乳癌の殆どは腺癌 (adenocarcinoma) であり、その中で最も普通の亜型は浸潤性乳管癌 (infiltrating ductal carcinoma ICD-O code 8500/3) である。他の亜型としては浸潤性小葉癌 (infiltrating lobular carcinoma ICD-O code 8520/3) などがある。稀に、腺癌以外の癌腫(や、癌腫以外の悪性腫瘍)がみられる。
診断が付くと、次は癌の病期の判定に移る。腫瘍の広がり具合と、浸潤や転移の有無を、病期判定の尺度とする。


治療

乳癌の治療は原則的には外科療法であり、化学療法や放射線療法が併用されることも多い。

外科手術
腫瘍のタイプと病期(ステージ)によって、乳腺腫瘤摘出(lumpectomy, しこりのみを摘出)か乳房を大きく切除する必要があるかが分かれる。日本ではlumpectomyを行うことは稀であり、腫瘍周囲に何センチかのマージンをつけて切除する乳房部分切除がスタンダードである。外科的に完全に乳房を切除する方法は乳房切除術 (mastectomy) と呼ばれる。
標準的な術式では、執刀医は手術で腫瘍を確実に切除できるように、腫瘍の周囲の正常組織を含めて組織を切除することで目的を達成する。組織切除に明確な余地が無いと、更なる切除手術が必要になる。場合によっては前部胸壁を覆う大胸筋 (pectoralis major muscle) の一部を切除することがある。
判断によっては、腋窩リンパ節も手術の際に切除(=廓清)される。過去においては、癌が広がらないように10~40個もの広範囲に腋窩リンパ節が廓清され、術後合併症として切除した側と同側の腕に、リンパ系の広範囲のリンパ節に障害が及ぶことによってリンパ浮腫 (lymphedema) の発生がみられた。 近年ではセンチネルリンパ節生検 (sentinel lymph node biopsy) が普及しつつあり、リンパ節の廓清範囲が少なくなると、この術後合併症が減少する可能性がある。
化学・内分泌療法
化学療法は、主に術前・術後の補助化学療法や進行・再発乳癌の治療に用いる。また乳癌はエストロゲン依存性であることが多いことからエストロゲン依存性の乳癌の場合、抗エストロゲン剤であるタモキシフェン、アロマターゼ阻害剤(レトロゾール等)を用いる。
放射線療法
現在乳癌に対する放射線治療には、局所再発の予防を目的とした術後照射と 転移および再発における症状緩和を目的とした照射がある。
分子標的治療
病理検査でHER-2陽性の場合、化学療法に分子標的薬(例:トラスツズマブ)を加えた治療が行われる。
今日の乳癌治療は二年置きに開催される国際会議である、スイスのSt. Gallen(ザンクトガレン)で開催されるシンポジウムで議論され、そこでの議論は世界規模の研究の中心で実際に行われた結果に基づいている。病理区分(年齢、癌の種類、大きさ、転移)で患者を大きく高リスク群と低リスク群とに判別し、その後で施す治療の取扱い基準をそれぞれ違うものを施す。次に要点を示す。

1. 乳房温存術(乳腺腫瘤摘出術、 乳房の四分の一切除)の場合に生じる、高い局所再発リスク(~40%に発生)は胸部の放射線療法で減少する。

2. リンパ節に浸潤していた場合に生じる、高い癌死亡リスク(30~80%)は全身療法(抗ホルモン療法あるいは化学療法)で減少する。

3. 若い患者において最も有効な全身療法は化学療法である(最適なレジメンが選択されることが求められ、CMF、FAC、ACあるいはタキサンも使用される)。

4. 壮老年の患者において最も有効な全身療法は抗ホルモン療法(タモキシフェンなど)である。

5. 化学療法は患者の年齢が65才を越えると増加する。

6. エストロゲン受容体を持たない腫瘍の患者の場合最も有効な全身療法は化学療法である。

7. エストロゲン受容体を持つ腫瘍の患者の場合最も有効な全身療法はホルモン療法である。

幾つかの種類の腫瘍については全身療法は推奨されない。また、浸潤されたリンパ節が殆ど無い場合は、乳房切除術や放射線療法は推奨されない。進行乳癌には三つの治療(外科療法、放射線療法、化学療法)を組み合わせるのが良い結果をもたらす。
予後
長期治療成績は診断確定時の乳癌の病期(ステージ)と癌がどのように治療されたかに依存する。一般的に言って、早期発見されればされるほど予後は良い。早期であればほとんどの乳癌が手術によって根治する。男性乳癌では女性乳癌と比較して大胸筋浸潤を起こしやすく、進行癌で発見される確率が高いため、 5年生存率40~50%と予後は不良であると考えられてきた。しかしながら、近年の例によると女性患者と比べても全生存率、無病生存率ともに変わらないことが指摘されている。

Wikipediaより参照


ヒト上皮細胞膜にはHer (Human epithelial growth factor receptor)と呼ばれる膜タンパク質が存在し、細胞内に分化・増殖のシグナルを伝達する役割を果たしています。ヒトには4種類のHerファミリー受容体が存在し、二量体を形成することで活性化します。その中でHer2遺伝子は乳がんなどにおいて高頻度に遺伝子増殖や過剰発現が認められます。細胞膜表面に大量のHer2タンパク質が存在する場合、癌は転移・再発しやすく予後が不良であると言われています(Carney et al. 2003)。


Cell Siganaling Technology社より参照



このHer2過剰発現乳がんのうち、転移性乳がんおよび、乳房切除後の補助化学療法のために、分子標的薬であるハーセプチン(一般名:トラスツズマブ)が適用されます。ハーセプチンは化学療法との併用で高い奏効率を示しますが、一方で薬価が高額であることや、まれに強い副作用が現れるといった問題点があります。各患者に適切な治療を提供するために、薬剤の治療効果を予測することは、薬効の面からも経済的な面からも非常に重要です。



SIMENS社より参照


従来、ハーセプチンを使用すべきか否かの判断は、患者の乳がん組織におけるHer2発現レベルの評価により行なわれてきました。すなわち、患者からバイオプシーを採取し、がん組織の染色(免疫組織化学法(IHC)およびfluorescent in situ hybridization法(FISH))により発現レベルを分類し、Her2高発現の患者にハーセプチンを適用するというものです。しかし、がん組織の採取は患者に身体的負担を強いるため複数回にわたって行うことは困難であり、がん細胞に関する時間的、空間的に限られた情報しか得ることができません。これに対し血液(血清・血漿)のように侵襲性の低いサンプルによる診断が可能になれば、経時的な病態の把握や治療効果の予測が可能になり、非常に有用であると考えられます。

HER2(Human Epidermal Growth Factor Receptor 2)遺伝子/タンパクは原発性乳癌の15~30%で過剰発現しており、その測定は予後因子として、また内分泌治療、化学療法の効果予測因子として、さらにトラスツズマブ(ハーセプチン®)治療方針の指針に用いられています。
 HER2陽性乳癌患者の一部の末梢血中にHER2タンパク(HER2 Extracellular domain;HER2-ECD)が検出されることは以前から知られていました。

■測定系
 血清HER2タンパクの測定系は使用する抗体、自動化システムもしくは手動測定の違いによりさまざまであり、研究結果の解釈にはどの測定系が使用されたかに注意を要します1)。
 日本では2002年より血清中のHER2タンパク測定が保険適用となりました。従来の測定法(ErbB-2 EIA:ニチレイ)では腫瘍マーカーもしくはトラスツズマブ治療効果判定などに関する臨床的意義が十分に明らかではありませんでした。SRL(検査受託会社)では2007年4月より欧米諸国で承認されている化学発光免疫測定装置(CLIA)を用いたより精度の高い血清HER2検査法2)を採用し、これは凍結保存血清による測定が可能となりました。
  本検査法を用いた血清HER2測定のカットオフ値は15.2ng/mlです。このカットオフ値を用いた検討では原発性乳癌の感度は約19.7%、特異度は 95%であり腫瘍組織のIHC法、FISH法によるHER2発現解析との相関が認められています。
■臨床応用
1. HER2状況の確認
原発性乳癌ではHER2陽性乳癌は30%以下で、転移性乳癌では20~50%の症例で血清HER2が基準値以上と報告されています。原発組織ではIHC 法やFISH法によりHER2陰性と診断されても、再発乳癌ではHER2陽性細胞が主体となる場合があります。測定法の違いやHER2陽性細胞の分布などが原因と考えられますが、こうした症例は、トラスツズマブの効果が期待される可能性があります。また乳癌の再発確定時に、原発腫瘍組織におけるHER2過剰発現の情報がない場合に血清測定でHER2タンパク過剰発現の有無を検討でき、その高値は予後不良因子とする報告が多く見られます。
2. 治療効果予測因子としての意義
 進行再発乳癌において血清HER2の高値は内分泌治療あるいは多くの化学療法剤に対する治療抵抗性とする報告がありますが、トラスツズマブ治療の奏効率が高いとの報告もあります。また治療開始後早期の血清HER2値の推移が治療効果予測因子である可能性も指摘されています。
3.トラスツズマブの治療効果モニタリング
 上述のCLIA法で用いる抗体(anti-Her2/neu モノクローナル抗体NB-3、TA1)の抗原認識部位はトラスツズマブとの競合阻害を示さないためその治療中であっても測定値に影響を及ぼさないとされ、実際にはHER2陽性転移性乳癌においてトラスツズマブ治療の効果と血清HER2値の推移に相関が認められています3)。
4. 再発の早期発見のための腫瘍マーカー
 血清HER2測定によるHER2陽性乳癌術後再発の感度はCEA、CA15-3よりやや良好とする報告がありますが、腫瘍マーカーを再発のモニタリングとして測定する意義は一般的にコンセンサスが得られていませんが、抗HER2分子標的治療の適応拡大に即して腫瘍dormancy(休眠状態)の解析、再発早期発見・早期治療、治癒率向上への発展性が期待されます。検出されることは以前から知られていました。


筑波大学大学院人間総合科学研究科乳腺甲状腺内分泌外科 坂東裕子先生


本研究では、以上のような現状に基づき、さらに高感度で精度の高い診断法の開発を目標にして、血液サンプルからハーセプチンの治療効果を予測するための診断薬の開発を目指し、都立病院と連携しながら研究を進めています。






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